胡蝶蘭温室の環境制御とサステナブル運用の舞台裏ガイド
胡蝶蘭の花姿を安定させるには、温室の環境制御と省資源の仕組みが不可欠です。本記事では栽培現場で実践されている温度・湿度・ 光量の管理方法と、サステナブルな運用を支える設備やルールを紹介します。
昼夜で温度と湿度を微調整
胡蝶蘭が最も安定する日中25〜28℃・夜間18〜20℃、湿度65〜75%を温室全体で保つためのセンサー制御が基盤です。
光量は拡散光で15,000〜20,000ルクスに
遮光カーテンと白色フィルムで直射を和らげ、葉焼けを避けつつ花芽形成に必要な光量を確保します。
資源循環で廃棄物を半減
雨水利用やミズゴケの回収再生、余剰熱の再利用で、温室運営の環境負荷を着実に減らしています。
温室設備の基本構成
胡蝶蘭が安定して生育する環境を作るために、温度・湿度・光のそれぞれを独立して制御できる設備を組み合わせています。各ブロ ックの役割と設定値を把握しておくと、季節の変化にも落ち着いて対応できます。
温度ゾーニングと空調設備
温水パイプ、ヒートポンプ、パッド&ファンを組み合わせ、区画ごとに細かな温度帯を維持します。
- 日中は25〜28℃、夜間は18〜20℃に設定。株の成長段階ごとに0.5℃単位で微調整します。
- 夏季は外気導入とパッド&ファンで27℃以下に抑え、遮熱カーテンで輻射熱を遮断。
- 冬季はボイラー温水パイプとヒートポンプを併用し、夜間の温度低下幅を1〜2℃以内に収めます。
湿度と給水の統合管理
ミスト、加湿器、自動給水トレイを連動させ、根の乾き具合と空中湿度を同時に管理します。
- 湿度センサーは各列に配置し、平均65〜75%・最低60%を下回らないよう制御。
- ミズゴケの乾燥度合いは重量センサーで確認し、加湿前に過湿の兆候をアラート。
- 週1回の手動確認で、水やりガイドと同じ判断基準を共有。
光と遮光のコントロール
南北の棟で遮光率を変え、季節や天候に合わせた拡散光環境を提供します。
- 春秋は遮光率30%、真夏は50%まで引き上げ、葉温を28℃前後に保ちます。
- LED補光は朝夕に15〜30µmol/m²/sを追加し、花芽誘導期の光量不足を補正。
- 光量計のデータを毎日記録し、光と温度管理ガイドと連動。
空気循環と衛生的な動線
縦方向と横方向のサーキュレーターで滞留を防ぎ、作業者の動線を分離して衛生環境を守ります。
- サーキュレーターは10m間隔で配置し、葉面に直接風が当たらない角度に固定。
- 作業通路は栽培列と交差しない一方通行に設計し、交差汚染を回避。
- 病害虫対策のチェックリストと連動した消毒ポイントを設置。
年間を通じた環境制御スケジュール
季節ごとに温室の運転方法を見直すことで、急激な環境変化を避けながら花芽形成と花持ちを両立します。既存の管理ガイドと照らし 合わせながら、各シーズンの調整ポイントを押さえましょう。
- 夜間18℃を維持し、朝は加湿器を先行稼働して葉の張りを確認。
- 遮光カーテンを段階的に閉じ、日中の光量は最大20,000ルクスまで許容。
- 梅雨入り前に梅雨の通風管理と除湿機の点検を実施。
- 猛暑対策ガイドを基準に、遮光率50%と夜間冷房で27℃を超えないよう管理。
- 循環扇を常時低速運転し、湿度が80%を超える時間帯は除湿モードに切り替え。
- 冷房で乾燥しやすい列は午前中にミストを追加し、根の乾燥が進む鉢は給水トレイで補う。
- 夜間温度を1週間あたり0.5℃ずつ下げ、18℃前後で安定させ花芽の伸長を促す。
- 湿度65%を維持しつつ、朝夕の換気で結露を防ぎカビ発生を抑制。
- 花芽が伸びた株は支柱を装着し、作業動線を再調整して折損リスクを低減。
サステナビリティへの取り組み
胡蝶蘭の温室はエネルギーや水を多く消費するため、資源循環と省エネの仕組みを整えることが欠かせません。沖田オーキッドで実践 している代表的な取り組みを紹介します。
水資源の循環利用
- 温室屋根で集めた雨水を一次フィルターとUV殺菌で処理し、灌水・ミスト用に再利用。
- 排水はECメーターで肥料濃度を測定し、基準内なら再度調整して循環。
エネルギー効率の向上
- 夜間の余剰熱を蓄熱タンクに回収し、早朝の立ち上げ暖房に再利用。
- ヒートポンプとボイラーを外気温に応じて自動切り替え、燃料使用量を最適化。
培養材と資材のリサイクル
- ミズゴケは株出荷後に選別し、殺菌と乾燥を経て若苗用に再生利用。
- プラスチック鉢は洗浄ラインで滅菌し、耐用年数を3サイクルまで延長。
モニタリング指標と記録ルール
環境データを定期的に振り返ることで、トラブルの前兆を早期に察知できます。温室スタッフが共有している主要指標と管理基準をま とめました。
センサー値は10分ごとに記録し、2℃以上の変動は即アラート。
60%を下回った場合は加湿器を優先、80%超は除湿と換気を指示。
葉焼けリスクを避けるため、南面の直射が強い日は遮光を自動閉鎖。
週次で分析し、濃度が上がる梅雨時は希釈して根腐れを予防。
換気で低下した際は朝の補光時間帯にCO₂発生装置を補助運転。
異常値は設備点検を優先し、改善策を省エネ会議で共有。
入室前の衛生ルール
- 靴底と手指を消毒し、保管棚の専用エプロンに着替えてから入室。
- 搬入資材は検品室で細菌・害虫の確認後に温室へ移動。
- 朝夕2回、サーキュレーターと換気扇のフィルターを点検。
作業中の交差汚染防止
- 列ごとに剪定・誘引器具を分け、作業終了後は加熱滅菌。
- 葉の状態が気になる株はタグでマーキングし、トラブルシューティング手順で個別対応。
- 株の移動経路と作業者の動線を分け、回路図を掲示して周知。
出荷前の最終チェック
- 花茎の本数・輪数・向きを確認し、撮影用の定点で状態を記録。
- ミズゴケの含水率と鉢底の清潔さを再確認し、梱包室へ移動。
- 温室全体の清掃と廃棄物分別を行い、翌日の環境ログを準備。
温室運営の改善もご相談ください
設備更新や記録方法の整備、スタッフ研修の設計など、胡蝶蘭温室の運営改善を温室スタッフがサポートします。法人の栽培施設や 大型什器の導入を検討している場合もサポートセンターからお気軽にご相談ください。